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2026.02.13 バイオテクノロジー科

顕微鏡の世界を広げる「技」の探究 ― 卒業研究で挑んだ植物組織標本の新手法 ―

以前ブログでご紹介した「[美しき顕微鏡の世界 ~ツバキの葉の断面編~]」予想を上回る大きな反響をいただきました。顕微鏡が映し出す秩序あるミクロの世界は、世代を問わず心を動かすものがありますね。

今年度は実習を終えた後、新たな疑問が芽生えた学生がいます。
「ツバキのように硬い葉ならピス(発泡スチロール)で切れるけど、もっと柔らかい葉はどうすればいいんだろう?」
この素朴な疑問から、ある班の卒業研究がスタートしました。

標本作製の「限界」に挑む

彼らが取り組んだ検討項目は主に3つです。
適応範囲 : ツバキ以外の植物でも綺麗な切片は作れるか?
手法の改良: ピスを使わない固定方法はあるか?
効率化  : 染色時間をどこまで短縮できるか?

特に難関だったのが、「柔らかい葉をどう固定して切るか」という問題でした。

試行錯誤の末にたどり着いた「アガロースゲル法」

通常、厚みのあるツバキやサザンカ、トベラなどはピスに挟むことで安定してスライスできます。
しかし、ニラやチューリップ、ユリといった柔らかい葉は、ピスで挟むと潰れてしまったり、刃の勢いに負けてうまく切れなかったりします。

そこで彼らが目をつけたのが、寒天やアガロース(ゲル)です。今の時代、検索すれば、あるいは生成AIに聞けば、それらしい「答え」はすぐに返ってきます。当初、AIからは「寒天2.5%程度で固めるのが適している」というアドバイスがありました。しかし、2.5%の寒天に葉を埋没させて固め、寒天ごとカミソリでスライスしてみると……

「寒天が柔らかすぎて刃に負ける」
「固定が甘くて断面がガタガタになる」

画面の中の正解は、目の前の実験台の上では通用しませんでした。

そこから彼らは、寒天の濃度を3%、4%……と上げ、ついには透明度の高いアガロースに切り替え、「6%」という独自の最適解にたどり着きました!6%アガロースゲルは例えればハードグミのような固さです。これにより、葉の組織を支えながら、0.1mm以下の薄い切片を作ることが可能になったのです。

植物の特性に合わせた「最適な手法」のまとめ
研究の結果、植物の性質によって手法を使い分けるのがベストであるという結論に至りました。

手法     適した植物(例)         特徴
ピス法      :ツバキ、サザンカ、トベラ    葉が厚く、組織がしっかりしているものに最適。
アガロース法: ニラ、チューリップ、ユリ   柔らかい葉でも組織を壊さず、精密な切片ができる。

 

実験の醍醐味は「納得」にある

「もっと試してみたい」という情熱が、実習の手順書を超えて新しい技術を生み出しました。受け身で手順書をなぞっていた実習の時とは、学生たちの顔つきが全く違い、眼がキラキラしています。思い通りにいかない結果に悩み、仮説を立て、何度もチャレンジを繰り返す。これこそが、実験の醍醐味です。

「検索して知っている」ことと、「体験して理解している」ことの間には、大きな違いがあります。
スマホ一台で何でも調べられる今だからこそ、自分の五感を使い、手を動かして得た「生きた知識」には、何物にも代えがたい価値があると思います。
卒業していく彼らが、この「正解のない問いに挑んだ日々」を糧に、新しい世界でも驚きと感動を見つけてくれることを願っています。

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