バレイショでんぷん(片栗粉)+胃腸薬=お汁粉味!?
TTCバイオテクノロジー科は、2年生の4,5期に学びの集大成として卒業研究を実施しています。例年、1~3人のグループに分かれ、担当教員にアドバイスをもらいながら学生がテーマを決め、実験計画を立てて、3ヶ月間試行錯誤しながら実験に打ち込みます。最後は、卒業研究発表会で研究内容と成果を発表し、詳細は卒業論文にまとめます。
2024年度の卒業研究は、10グループに分かれて活動しています。今年度は、食品開発、食品の成分分析、化学分析、微生物の働き、遺伝子解析、植物組織培養などの研究に取り組んでいます。今回のブログでは、植物の組織培養と糖化実験をおこなっている班の活動を紹介します。
高校時代から植物の組織培養に興味があったTさん。卒業研究では、ジャガイモの芽を培養してマイクロチューバー(直径1㎝程度の極小ジャガイモの塊茎)をつくるための実験をおこなっています。アスパラガスとサツマイモの茎頂で練習を重ねてから、いよいよジャガイモの茎頂培養にチャレンジです。1ヵ月かけてジャガイモの芽をのばしました。ジャガイモの芽をエタノールと塩素液で消毒した後、実体顕微鏡を覗きながらメスで1㎜程度の茎頂を摘出し、MS培地に置床して培養を開始しました。
茎頂が伸びたら高ショ糖培地に継代し、マイクロチューバーを育成する予定ですが、それには数ケ月かかります。植物組織培養をしている間、余ったジャガイモを使って、でんぷんの糖化実験をおこなうことにしました。
ジャガイモをおろし器ですりおろし、水にさらしてでんぷんを抽出し乾燥させました。ジャガイモから重量比で約10%のでんぷんが得られます。ジャガイモのでんぷんは、バレイショでんぷんと呼ばれ、一般的に市販されている片栗粉と同じです。これを水で溶いたのち熱湯をかけ、ゲル状のあんかけ(20%w/vでんぷん液)をつくりました。
ここで、ちょっと化学の知識のおさらいです。
でんぷんはグルコースがつながった多糖類です。これにアミラーゼなどの消化酵素を作用すると、多糖がどんどん短くなって、短い糖になっていきます。これを糖化といいます。糖化には、甘酒づくりでおなじみのコウジカビなどの微生物を使う方法と、酵素を使う方法があります。
今回は、微生物を使わず胃腸薬とモルトパウダーででんぷんの糖化にチャレンジしました。
食べ過ぎ、胸やけで服用する胃腸薬には消化吸収を助けるさまざまな消化酵素が含まれるため、でんぷんを分解するアミラーゼも入っています。また、フランスパンなどの製造に使うモルトパウダー(麦芽を粉末にしたもの)にもアミラーゼがたっぷり含まれています。
実験内容に戻りましょう。
先ほど説明したゲル化したバレイショでんぷん液に胃腸薬やモルトパウダーを加えるとどうなるでしょうか。胃腸薬の粉末やモルトパウダーを入れてかき混ぜると、わずか30秒で液状になります。アミラーゼの働きででんぷんが糖化したのです。
実際に、糖化したことをヨウ素デンプン反応でチェックしてみました。でんぷん液に胃腸薬の粉末を投入してから1分おきにサンプリングし、ヨウ化カリウム溶液を加えました。1~2分後までは紫色に着色しでんぷん反応がありましたが、3分以降はでんぷん反応がなく、多糖が分解されているのがわかりました。予想以上に酵素の反応が速いのでびっくりです。
薄層クロマトグラフィーで糖の分解がどこまで進んでいるのかも確認しました。早い段階で、多糖の分解がおこり、わずか1時間でほとんどが単糖(グルコース)や2糖(マルトース)まで分解することがわかりました。
そして、やっぱり気になるのが、実際の甘さです。でんぷんは甘みがないですが、糖化すると甘みを感じるはずです。熱湯で溶解したバレイショでんぷん液400mLに胃腸薬5錠をすりつぶした粉末を入れ、60℃で2時間、アミラーゼ反応をさせ、液状になった液をマドラーですくって一口なめてみました。
「わぁ~お汁粉みたい!」甘酒ほど甘くはありませんが、薄めのお汁粉のような甘みを感じます。バレイショでんぷん(片栗粉)+胃腸薬=お汁粉の甘さの方程式になるなんて、面白いですよね。学生と顔を見合わせて大笑いしました。胃腸薬の消化力はたしかです!
卒業研究もいよいよ大詰めです。2025年2月28日には卒業研究発表会があります。今回は、学生の家族、高校の先生、卒業生にも声をかけています。発表会まであと3週間。これまでの努力の成果をしっかり形にできるように、ラストスパート頑張っていきましょう。
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文責: 宮ノ下いずる【169】