アラビノースが入った培地で光る大腸菌(バイオテクノロジー科 応用バイオ化学実験 2年)〔100〕
今年も『光る大腸菌』の実験が始まりました。2年生はオワンクラゲがもつ光るタンパク質(Green Fluorescent Protein ;GFP)の遺伝子を大腸菌に入れて、大腸菌の体内でGFPタンパク質を発現させる実験をおこなっています。
DNAはタンパク質の設計図と言われますが、生体内でDNAの遺伝情報がRNAに読み取られ、タンパク質が作られる一連の流れ(セントラルドグマ)をこの実習で学べます。毎年恒例ですが、緑色の蛍光が観察されると「おお~」と学生から歓声が上がりとても盛り上がります。
今年度も、遺伝子組換え体(形質転換した大腸菌)の取り扱いはP1レベルの閉鎖系実験室でフェイスシールドを着用し、密集、密接をさけコロナ感染予防対策をとりながら実施しています。
今回のブログでは、大腸菌の体内でどのように緑色蛍光を発するGFPタンパク質が発現するのか、イラストを使って簡単に説明したいと思います。
今回は、Bio-Rad社から販売されているGFP遺伝子を含むpGLOというプラスミドDNAを使いました。pGLOは3つの重要な遺伝子をもっています。1つはGFP遺伝子です。その他に、araC遺伝子とアンピシリン(抗生物質の一種)耐性のAmpr遺伝子をもっています。この3つの遺伝子をもつpGLOを大腸菌に導入(形質転換)すると、それぞれの遺伝子からタンパク質が発現します。その様子をイラストにしてみました。
左下の大きな楕円が大腸菌、右上の環がpGLOを模式的に示しました。pGLOで大腸菌を形質転換すると、Amprの遺伝子からβ-ラクタマーゼが発現しアンピシリンを分解します。そのため、pGLOをもつ大腸菌はアンピシリン入りの培地でも増殖することができます。araC遺伝子からはaraCタンパク質が発現します。このaraCタンパク質がGFP遺伝子の発現のカギをにぎっています。
少し難しくなりますが、araCタンパク質とGFP遺伝子の発現について説明してみます。
araCはDNA結合タンパク質です。アラビノース※(糖の一種)が存在すると、araCタンパク質にアラビノースが作用し、araCタンパク質の形が変わります。その結果、RNAポリメラーゼがプロモーターに結合しGFP遺伝子の転写が促され、GFPタンパク質がつくり出されるのです。つまり、GFPの発現にはaraCタンパク質に作用するアラビノースが必須。下の写真はpGLOを組み込んだ大腸菌を3種類の培地で培養した結果です。(アラビノースオペロンの説明はここでは省略します)
※ L(+)アラビノース使用
右端のアラビノースが入った培地でのみ、大腸菌が紫外線照射で緑色の蛍光を発するのが観察されるでしょう。これは、アラビノースがGFPの発現に必要であることを示しています。
2年生諸君!GFPの発現にはなぜアラビノースが必要なのか、試験までに説明できるようにしっかり勉強しておいてくださいね(笑)。
今回は、大腸菌体内でGFPを発現させていますが、他の遺伝子、例えばインスリンの遺伝子を導入して発現できれば、インスリンを生産することができます。また、青い色素を作る遺伝子をバラに導入して、青い色素を作る酵素を発現できれば青いバラを作ることもできます。「光る大腸菌」の実験から有用な組換えタンパク質を発現する技術に応用できます。
来週からは、光る大腸菌のコロニー(菌の集合体)からGFPタンパク質やpGLOプラスミドを抽出し、電気泳動でさらに解析していく予定です(*^^*)
注)遺伝子組換え生物の取り扱いは法令 (通称「カルタヘナ法」)を遵守し、組換え生物の拡散を防止のため、実験は閉鎖系で行います。
遺伝子組換え実験のカリキュラム作成・授業評価は、職業実践専門課程の本校 演習実習・連携先企業、Bio-Cousulting Japanと連携して行っています。
★遺伝子工学系の実験ブログのバックナンバー★
『光る大腸菌』〔007〕
『光る大腸菌 パート2 光る物質の正体は?』〔020〕
『1本3300円のバラ!』〔023〕
『コロナ禍で行う遺伝子組換え実験』〔041〕
『超かんたん!植菌はガラスビーズを転がして』〔054〕
東京テクニカルカレッジ バイオテクノロジー科 講師紹介
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文責 :宮ノ下いずる