コロナ禍で行う遺伝子組換え実験(応用バイオ化学実験1(遺伝子) 2年)〔041〕
〈左:GFPを導入した遺伝子組換え大腸菌に紫外線を照射 中央:トリコロール培地で培養した大腸菌群 右:β-ガラクトシダーゼを発現した大腸菌〉
コロナ禍で対面授業を再開したのが昨年6月。それから1年が経過しましたが、COVID-19対策をしながら実習を続けることは、なかなか大変です。とりわけ、閉鎖系が求められる遺伝子組換え実験においては。
バイオ科では、クリーンルームや実習室での無菌操作以外は、密室をさけるため実習室のドアを開け、換気をしながら実験を行っています。しかし、遺伝子組換え体を扱う実験は組換え遺伝子の拡散を法律1)で厳しく規制しているので、閉鎖系で行わなければなりません。なるべく3密(密閉・密集・密接)を避けながら、遺伝子組換え実験の技術を身につけてもらうため、講師は知恵をしぼって対応しています。
今回は、バイオ科が行っているコロナ禍で行う遺伝子組換え実験2)をご紹介します。担当講師は、遺伝子工学のスペシャリスト、大藤道衛先生です。
〈遺伝子組換え実験を担当する大藤道衛先生〉
実習の概要です。β-ガラクトシダーゼ遺伝子をもつプラスミド※を大腸菌に形質転換し、組換え大腸菌をつくります。この組換え大腸菌を培地で培養し、大腸菌からプラスミドを抽出し、電気泳動で確認する実験です。この実習を工程別に5つに分けてみましょう。
1)β-ガラクトシダーゼ遺伝子をもつプラスミドを大腸菌に形質転換
2)形質転換した大腸菌を培地に植菌して培養
3)形質転換した大腸菌のコロニーをかきとり液体培地で培養
4)形質転換した大腸菌からプラスミドを抽出
5)電気泳動でプラスミドを検出
私が実習を見学した時は、1と2)の操作を行っていました。これらは遺伝子組換え体を扱うので閉鎖系でおこなわなくてはなりません。実習では、密集・密接を極力さけるため、学生を4グループに分け実験室に入る人数を減らし、4サイクルで実施しました。また、感染防止対策を強化するため、マスクの他にフェイスシールドを着用しました。
〈遺伝子組換体を扱う時は、空調を止め実験室を閉める〉
〈ヒートショックによりプラスミドを大腸菌へ形質転換する〉
〈プラスミドを保持した組換え大腸菌を培地に植菌する様子〉
β-ガラクトシダーゼの遺伝子を保持したプラスミドを大腸菌に組み込んだ後、培地に植菌します。培地には、β-ガラクトシダーゼの発色基質であるIPTGとX-Galを加えました。IPTGとX-Galを含む培地で培養した大腸菌は、細胞内でβ-ガラクトシダーゼが発現し、X-Galが加水分解され青くなり、青色の大腸菌のコロニーが観察されました。
〈左:IPTGとX-Galなし 白コロニー 右:IPTGとX-Galあり 青コロニー〉
組換え体の扱いは、閉鎖系が必要ですが、閉鎖系でなくても実験ができるような工夫もしています。例えば、
『プラスミドを保持した大腸菌の培養』(3)に相当→『プラスミドを持たない一般的な大腸菌の培養』
『大腸菌からのプラスミドDNA抽出』(4)に相当→『大腸菌からのゲノムDNA抽出』
(5)のプラスミドの電気泳動は通常の開放系で行うことができます。上記のように実験内容を変更すると、シラバスに基づく学ぶべき実験操作はほぼ同じで、開放系の実験が可能になります。このように、COVID-19対策と遺伝子組換え技術習得の両立をはかるため、試行錯誤しながら実験を継続しています。
◆本日のバイテク用語№24◆
プラスミド:大腸菌などは、核外にプラスミドと呼ばれる輪のような形状(環状2本鎖)のDNAが存在します。プラスミドは大腸菌内で複製され、大腸菌が増殖すると、それぞれの細胞にプラスミドDNAも受け継がれていきます。遺伝子工学の分野では、大腸菌の菌体内で目的の遺伝子を増やしたり、遺伝子からタンパク質を発現させる実験をおこなうときに、目的の遺伝子を含むプラスミドを使います。
1)実験は法令(「遺伝子組換え生物等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(通称カルタヘナ法))に則った「教育目的遺伝子組換え実験」の範囲で安全を確保しながら実施しました。
2)遺伝子組換え実験のカリキュラム作成・授業評価は、職業実践専門課程の本校 演習実習・連携先企業、Bio-Cousulting Japanと連携して行っています。
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文責: 宮ノ下いずる