『光る大腸菌』パート2 光る物質の正体は?(バイオ総合実習2年)〔020〕
みなさん、こんにちは。バイオ科の宮ノ下です。
今年最初のバイオ科ブログは光り物からスタートします!
以前紹介したブログ『光る大腸菌』では、緑色に光り輝く神秘的な大腸菌の集落(コロニー)を紹介しました。詳しくはこちら
今回はその続編で、大腸菌を光らせている物質の正体にせまります。
『光る大腸菌』を培養し、大腸菌の細胞溶出液に紫外線を当てると…
わぁ!美しいエメラルドグリーンになりました。この液体中のどんな物質が光っているのでしょうか。
〈紫外線を当てるとエメラルドグリーンに光る大腸菌溶出液〉
担当講師は、前回に引き続き、遺伝子工学のスペシャリスト大藤道衛先生です。
〈熱心に学生指導をする大藤先生〉
ここで少し、前回のおさらいをしておきましょう。
『光る大腸菌』は普通の大腸菌ではなく、遺伝子工学技術を使ってGFP遺伝子を導入した大腸菌でした。では、光っているのは、導入したGFP遺伝子(DNA)でしょうか。それとも、GFP遺伝子から発現したGFPタンパク質でしょうか。
まずは、光る物質の正体がDNAかどうかを調べてみましょう。『光る大腸菌』を培養してから細胞を壊し、GFP遺伝子を含むプラスミドDNAを取り出しました。抽出したプラスミドDNAから制限酵素を使ってGFP遺伝子(DNA)を切り出し、アガロースゲル電気泳動で確認します。
〈ゲル板にアガロースゲルを流しいれて固める様子〉
〈GFP遺伝子溶液をゲルにアプライ(添加)する学生〉
約40分間の電気泳動の後に、ゲルに紫外線を当ててみました。DNA自体が光るなら、ここで緑に発光するはずです。しかし、残念ながら、緑の蛍光は見えませんでした。大腸菌で光っていたのは、GFPのDNAではないようです。
DNAが検出できるようにエチジウムブロマイドで染色してから、紫外線を当ててGFP遺伝子(DNA)のバンドを検出しました。
〈DNAのバンドの写真を撮る学生〉
〈電気泳動で検出されたGFP遺伝子(DNA)のバンド〉
次に、光る成分がタンパク質なのかどうか調べてみましょう。
大腸菌の細胞抽出液を疎水カラムに通してタンパク質を吸着させました(疎水クロマトグラフィー)。その後、カラムに溶出液を加えると、タンパク質がカラムの下へ移動します。ここで、カラムに紫外線をあてて観察してみました。
あっ!緑色に光っている層があります。光っているのはGFPタンパク質のようです。
〈疎水カラムを移動するGFPタンパク質〉
紫外線を当ててカラムを移動する緑の層の位置を確認しながら、緑の液体だけを回収しました。
〈疎水カラムを通して回収したGFPタンパク質〉
回収した緑の液体が本当にGFPタンパク質なのかを確認するため、ポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)をしてタンパク質の分子量を調べました。
〈ポリアクリルアミド電気泳動でタンパク質を分離〉
〈泳動後のゲルに紫外線を当てて検出されたGFPの蛍光〉
泳動後のゲルに紫外線を照射すると、GFPタンパク質※とほぼ同じ分子量(約30 kDa)の位置に、緑の蛍光を発するバンドが検出されました。このことから、大腸菌で光っていた正体はタンパク質であることがわかりました。
まとめましょう。大腸菌のコロニーに紫外線照射すると緑に発光したのは、GFP遺伝子を組み込んだ大腸菌の細胞内で発現したGFPタンパク質によるものでした。
来週のブログもお楽しみに★
※ 文献では27 kDaといわれています。
◆今日のバイテク用語№13◆
疎水カラムクロマトグラフィー:タンパク質はアミノ酸がつながったものですが、アミノ酸には水に溶けやすい種類(親水性)と水に溶けにくい種類(疎水性)があります。構成しているアミノ酸によりタンパク質の疎水性は異なります。疎水カラムクロマトグラフィーは、タンパク質の疎水性の違いを利用して目的のタンパク質を分離する方法です。GFPタンパク質は疎水性アミノ酸を含みます。高濃度の塩濃度の中では疎水性の部分がむき出しになり、疎水カラムに吸着しやすくなります。その後、塩濃度の低い溶出液を通すと、カラムからGFPタンパク質が外れ溶出されます。
クロマトグラフィーにはいろんな種類があります。
以前紹介したゲルろ過クロマトグラフィーに関するブログはこちら
文責 :宮ノ下いずる