第13回TTCバイオカフェを「国際植物の日」特別企画として5月23日(金)に開催しました。
第13回TTCバイオカフェは、「ミクロな戦略を知って病気に強いイネを作る!~食糧の安定供給を目指して~」と題して、高辻博志先生(理学博士、農業生物資源研究所 遺伝子組換え研究センター 耐病性作物研究開発ユニット ユニット長)を演者にお招きいたしました。先生のご講演の後、フロアを交えての質疑応答と話し合いがありました。カフェの案内、先生のご紹介は、ここをクリック。
今回のTTCバイオカフェは、NPO法人くらしとバイオプラザ21主催、独立行政法人 農業生物資源研究所、東京テクニカルカレッジ(TTC)共催により「国際植物の日」の特別企画として2014年5月23日(金)に行いました。
*「国際植物の日」(”Fascination of Plants Day”; FoPD)とは、欧州植物科学機構(European Plant Science Organisation; EPSO)主導による「世界のみんなで植物のたいせつさを考える日」です。
陽が傾きだした夕方6時、いよいよカフェの開始です。
はじめに、NPO法人くらしとバイオプラザ21の常務理事の佐々義子博士からご挨拶とバイオカフェについてのお話しがありました。続いて、三上孝明校長から恒例のウェルカムスピーチがありました。
次に酒井 絵美さん(フィドル、ブズーキ)、髙梨 菖子さん (アイリッシュホイッスル)、黒木 彩香さん (クラリネット)によるアイルランド音楽の演奏が、心を和ませてくれました。
ここからは笹川由紀博士(農業生物資源研究所報道官)がファシリテーターとなって、高辻先生のご講演が始まりました。
病原微生物によって起こるイネの病気は色々あります。これまでもイネが元々もっている病気への抵抗性を誘発する薬を用いて、病気を防ぐこともできました。高辻先生はその抵抗性のメカニズムをマイクロアレイなどの分子生物学的手法をもちいて調べ、ある遺伝子からつくられるタンパク質(転写因子)を見つけられました。この転写因子は、病気を防ぐ色々な遺伝子を制御しています。そこで先生は、遺伝子組換え技術を用いて、イネが本来持っている”この転写因子”を上手くコントロールすることで、病気に抵抗性があり、成長がよいイネの開発をされています。たいへん高度な内容ですが、先生は写真や絵をふんだんにつかったスライドを用いて、たいへん丁寧に説明してくださいました。
写真や図がたくさん入ったスライドで分かりやすく解説してくださいました。
高辻博志先生
高辻先生は、ミクロな世界でのイネと病原微生物との戦いについて、生物学的に、そして進化的にも”興味深い視点”でお話をしてくださいました。
先生のご講演の詳しい内容とその後のフロアとの話し合いについては、
NPO法人くらしとバイオプラザ21のバイオカフェレポートをご覧ください。ここをクリック。
フロアからの質疑応答と話し合い。多くの質問やコメント、活発な意見交換もありました。
高辻先生が作られた病気に強いイネは、現在飼料用として研究されています。
近い将来、市場でお目にかかれる日を楽しみにしたいと思います。
一方、日本ではこれまでに多くの遺伝子組換え作物が認可されています。また安全性審査を経た遺伝子組換え食品も多数あります(ここをクリック)。
なかでも、ハワイ産の遺伝子組換えパパイヤ「レインボー」は、生のままで食べられる果物(食品)です。
先生は、このレインボーパパイヤについても解説してくださいました。
ハワイでは、リングスポットウイルスによりパパイヤ産業が甚大な打撃を受けることがありました。レインボーパパイヤは、このウイルス耐性を持たせる遺伝子を導入した遺伝子組換え(Genetically modified; GM)作物です。1998年にレインボーパパイヤが登場したことから、ハワイのパパイヤ生産量も、まさにV字回復しました。まさに救世主でした。「レインボーパパイヤ」は日本でも承認され、2011年から日本の市場での販売が可能になっています。
注:レインボーパパイヤの開発や承認に関わる物語は、こことここをクリック。どちらも佐々義子先生のレポートです。
質疑応答や話し合いの最中に、フロアの皆さんとレインボーパパイヤを試食しました。
ハワイのカポホソロパパイヤやフィリピンのパパイヤも同時に試食しました。
試食したフロアの皆さんからは、「レインボーパパイヤは、甘くておいしかった」と好評でした。
ちなみにHawaii Papaya Industry Association(ハワイパパイヤ産業協会)によるとRainbow(「レインボーパパイヤ」のこと)は、
“ Initial consumer testing has confirmed the extreme popularity of this golden yellow flesh variety.”
ということで、市場でも大変人気があるようです。
注:遺伝子組換えで甘くなっているわけではありません。甘みは品種の違いです。
レインボーパパイヤ開発者Dr. Dennis Gonsalvesが語る開発秘話は、ここをクリック。(The story of the Rainbow Papaya(英語版))
音楽演奏リーダーの黒木 彩香さん(左端、東京大学大学院学生)は、昨年5月のTTCバイオカフェでもクラリネットを演奏してくれました(ここをクリック)。ことしは、高梨さん、酒井さんとアイルランド音楽の演奏です。
佐々義子先生のご挨拶
TTCバイオカフェでは、いつも手作りのパウンドケーキを作ってきてくださいます。
美味しい!いつも好評!
三上孝明校長の挨拶(ウェルカムスピーチ)
今回のパパイヤ試食の準備は、TTCバイオ学生の協力で行いました。
左からフィリピン産のパパイヤ、ハワイ産のカポホソロ種、レインボーパパイヤ。
(協力学生は、楠田さん、酒井さん、遠山さん)
レインボーパパイヤ一つ一つに、「遺伝子組換え」と日本語の表示ラベルが貼ってあります。
これまでのTTCバイオカフェは下記をご覧ください
第1回2009年11月27日
「チョコレートの秘密〜ポリフェノールの科学」(梶睦先生 明治製菓)案内、レポート
第2回2010年9月17日
「グリーンイノベーション」(田部井豊先生 独立行政法人 農業生物資源研究所)案内、レポート
第3回2010年11月26日
「健康予測からご先祖のことまでわかる遺伝子診断」(田村智英子先生 木場公園クリニック)案内、 レポート
第4回2011年9月16日
「ゲノムの話〜どうしてガンはできるのか」(大藤道衛 東京テクニカルカレッジ・バイオ科)案内、 レポート
第5回2011年10月25日
「植物のストレス応答~私が植物から学んだこと」(佐々義子先生 NPO法人くらしとバイオプラザ21)案内、レポート
第6回2012年2月3日
「意外としたたかな植物 ~植物のストレス応答のしくみ解明と応用への試み~」(光原一朗先生 独立行政法人 農業生物資源研究所 植物・微生物間相互作用研究ユニット )案内、レポート
第7回2012年5月18日
「植物と微生物における共生の進化 ~根粒を環境に優しい農業に役立てるには?~」(林誠先生 独立行政法人 農業生物資源研究所 植物共生機構研究ユニット長) 案内、当日の様子、レポート
第8回2012年11月30日
「保存料をめぐるいろいろな誤解と実際」(荒井祥先生 上野製薬株式会社)案内、当日の様子、レポート
第9回2013年2月1日「ブタとゲノムのおいしい関係~ゲノム情報を使ったブタの品種改良~」(美川 智先生 独立行政法人農業生物資源研究所) 案内、当日の様子、レポート
第10回2013年5月24日「感染する?しない?植物とウイルスのミクロな駆け引き」(石橋和大先生 農業生物資源研究所) 案内、当日の様子、レポート
第11回2013年11月30日
「甘いだけではない糖(鎖)〜糖鎖は病気を見つけるサインとなるのか~」(立田 由里子先生(独立行政法人 理化学研究所 システム糖鎖生物学グループ 疾患糖鎖研究チーム) 案内、当日の様子、レポート
第12回2014年2月7日
「絹糸だけじゃない!医療にも役立つ“お蚕さま”~カイコってどんな昆虫?~」(瀬筒秀樹先生 農業生物資源研究所) 案内、当日の様子、 レポート