自分で育てたユーグレナ(ミドリムシ)入りマシュマロをつくりたい! 2023年 RJP活動報告 №4〔140 〕
東京テクニカルカレッジ(TTC)にはRJPというユニークな授業があります。RJPは、Real Job Project(リアルジョブプロジェクト)の頭文字で、学生が主体となり企画、予算計画、実行、振り返り、改善などのプロセスを経験から学ぶTTC独自のプログラムです。バイオテクノロジー科では、実験で身につけた仮説検証のノウハウを活かして、モノづくりや理科実験、花壇整備などを行いバイオテクノロジーの魅力を発信しています。この活動を通して、チームで考え、問題を解決する力を養うのが狙いです。
今年のバイオ科は1,2年生混合の6班編成で、毎週金曜日の午後(6~12月)にRJPの活動をしています。今回のブログでは、藻類のミドリムシ(ユーグレナ)を使った食品開発にチャレンジした班の取り組みをご紹介します。
食品開発や微生物に興味があるユーグレナ食品開発班は5名で構成されます。今年度は、ユーグレナを培養しパウダー化するグループと、ユーグレナに近い食材(大麦若葉、スピルリナ、モリンガ)を使い、簡単でおいしい食品を開発するグループに分かれて活動しました。
「藻類のユーグレナは50種類以上の栄養素を含み、食物繊維も多いことから整腸作用など健康効果が期待できる食材として注目されています。私たちはユーグレナを大量培養し、加工しやすいようにパウダー状にして栄養価の高い機能性食品をつくるために活動しています。」とリーダーのMさん。
活動1 ユーグレナの大量培養に適した培地の検討
これまで、バイオテクノロジー科では、0.1%ハイポネックス培地が入った梅酒瓶でユーグレナを育ててきました。継代は4~6ヶ月ごとにおこない、ゆっくり育ててきましたが、ユーグレナを食品に利用するためには、もっと早く増殖させる必要があります。そこで、ユーグレナの増殖力をあげるための培地を検討することから始めました。
0.1%ハイポネックスをコントロール(実験の基準)にして、主に植物組織培養で用いるMS培地や、大腸菌の培養で用いるLB培地、またビール酵母液などさまざまな培地を70mL調製し滅菌しました。その中に梅酒瓶で培養していたユーグレナを10mL加え2週間培養しました。
その結果、0.6%のビール酵母の培養液のみ、緑色が濃くなり、肉眼でもユーグレナが増殖していることがわかりました。たった2週間で色の変化でわかるほど増えるとは、ビール酵母液恐るべし。ただ、問題点もありました。ビール酵母液ではユーグレナだけでなく細菌がコンタミネーション(コンタミ)することがわかりました。つまり、ビール酵母はユーグレナだけでなく細菌にもおいしいごはんなのです。食品利用する場合、細菌による汚染は防がなければなりません。
活動2 抗生物質を使用したユーグレナの培養
3期では、ハイポネックス培地にストレプトマイシン、アンピシリン、カナマイシンなどの抗生物質を加え、ユーグレナの増殖を阻害せず、細菌のコンタミを抑える抗生物質の種類と濃度を検討することにしました。
その結果、アンピシリンやストレプトマイシンには細菌増殖を抑える効果がありますが、カナマイシンにはないことがわかりました。また、カナマイシンは菌を抑制しないだけでなく、ユーグレナの増殖を阻害してしまったのです。アンピシリン単独、もしくはアンピシリンとストレプトマイシンを混合した抗生物質を含む培地でユーグレナを培養すると、ユーグレナの増殖を阻害することなく細菌の繁殖を抑えることができるようです。
活動3 ユーグレナのパウダー化
4期は、ユーグレナのパウダー化にチャレンジしました。これまで、学科の授業では凍結乾燥を行ってきましたが、それ以外の方法で乾燥させることにしました。ユーグレナ培養液をチューブに入れ、高速遠心分離した後、上清を取り除きます。その後、沈殿(ユーグレナ)を、シリカゲルやデシケーター、乾熱機(60℃)に一晩入れて水分を完全に飛ばしパウダーにしました。
どの方法でもユーグレナを粉末にすることができました。このユーグレナをそのまま食品に利用することはできませんが、今回の活動で、培養法や乾燥法を検討することができました。来年はさらにユーグレナを食品利用するために、実験の精度をあげたり、食品としての安全性の評価をしていく予定です。
活動4 栄養価を強化したマシュマロづくり
ユーグレナパウダーができたらどんな食品に加工しようか。食品開発は調理師免許をもつ2年生がリーダーとなって活動しています。「通常の食事と合わせて手軽に食べられるお菓子を作ろうと思い、2コマ(180分)のRJP活動でもつくることができるマシュマロを選択しました。」とSさん。
2期は、ユーグレナの代わりに、大麦若葉、スピルリナ、モリンガのパウダーを使用し試作品をつくりました。大麦若葉は、安価でユーグレナに味も近いことから代替品として使用しました。ビタミンとミネラルが豊富に含まれていて、「腸内環境改善」や「便通改善」などの機能が報告されています。スピルリナは、ユーグレナと同様にその栄養素が注目される藻類です。栄養価が高く、「肌の保湿力を高める」効果が期待できる成分も含まれているとか。近年は、宇宙食として開発が進められている注目の食品だそうです。モリンガは、栄養価が高い植物として注目されています。ベンジルグルコシノレートと呼ばれる成分が「抗疲労作用」の機能を持つと言われてます。
一般的にマシュマロはゼラチン、グラニュー糖、水飴を使ってつくるお菓子です。まず、ゼラチンを湯煎でふやかしておきます。次に鍋にグラニュー糖、水飴、水を加えて温度計を指して、温度を確認しながら106℃になるまで沸騰させます。火から外し、90℃まで冷ましたら、ふやかしたゼラチンを加えます。ゼラチンが熱で溶けるので、ハンドミキサーで角が立つまで攪拌します。その後、それぞれのパウダー素材を2.5%になるように加え、攪拌します。コーンスターチをふるったバットに生地を流し込み、恒温機で数日間乾燥させました。包丁でカットしたら完成です。
試作したマシュマロは、クラスメイトに試食してもらい感想を聞きました。「大麦若葉は抹茶のような味わいで、後味が一番よかった。」「スピルリナはちょっと海苔みたいな風味と独特のにおいがある。」「モリンガは、ヨモギ?のようで草饅頭の味がする。後味に苦みを感じる。」などいろいろな意見がありました。一番人気は大麦若葉のパウダー入りマシュマロだったようです。
活動5 パウダーを入れるタイミングを検討する
さまざまなパウダー素材を添加したマシュマロはそのままでもおいしいのですが、素材を入れないコントロールの白いマシュマロと比べると口当たりが悪くざらざらしている問題点がありました。そこで、素材を入れる順番を先にするか、後にするかでマシュマロの食感に変化があるのかを検討しました。
試作したマシュマロは、レオメーターを使い、切断強度や歯切れがよいかなど物理的に測定しました。
物性測定の結果、パウダーを入れるタイミングにより、マシュマロの固さに差があることがわかりました。この違いが食感の違いに現れるようです。他にも官能検査を実施すると、前入れより後入れの方が、甘すぎず、口どけがよく美味しいと答える学生が多くいました。試行錯誤しましたが、パウダー素材を入れるタイミングは、当初通り後に入れた方がよいことがわかりました。
活動6 速乾性を高めたマシュマロ開発
おいしいマシュマロはできましたが、乾燥に数日かかってしまうことが課題でした。4期は乾燥時間を短縮するレシピの開発をおこないました。水分含量を減らすために目をつけたのが卵白を泡立てたメレンゲを使う方法です。まず、卵白にグラニュー糖を少しずつ加えて、ハンドミキサーでメレンゲをつくります。その後、水飴を使わずグラニュー糖と水だけを入れて、加熱融解して、そこにゼラチンとパウダーを加えて撹拌した後に、メレンゲを加えマシュマロにしました。
前期の配合ではマシュマロの乾燥に数日間かかっていましたが、メレンゲを使ったマシュマロは、バットに絞ってから15分という短時間で乾燥することができました。「これは卵白に含まれるタンパク質が空気変性を起こし、マシュマロに被膜が形成されたからではないかと考えています。」とSさん。さらに、食感でも嬉しい効果がありました。これまでのマシュマロよりメレンゲを使った方がより滑らかでやわらかくなったのです。
速く乾燥するおいしいマシュマロが完成しました。来年、食用のユーグレナパウダーが完成したら、東京テクニカルカレッジ バイオテクノロジー科オリジナル、ユーグレナマシュマロを作る予定です。どうぞお楽しみに★
これから2月まで月末の金曜日はバイオ科のRJP活動を紹介していきます。
次回(1月26日金曜日)は、モッツァレラチーズづくりにチャレンジした班の活動を紹介します。来月のRJPブログも、どうぞお楽しみに★
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