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2023.09.15 バイオテクノロジー科

研究材料はうんち⁉腸内細菌のメタゲノム解析をおこなう研究室へ  卒業生の企業訪問 №2(東京テクニカルカレッジ バイオテクノロジー科)〔130〕

本日のブログは卒業生の企業訪問第2弾をお届けします。

東京テクニカルカレッジ(TTC)のバイオテクノロジー科で微生物学を担当してくださっている須田亙先生(講師紹介はこちら)は理化学研究所(理研)で腸内細菌のメタゲノム解析を行っている研究者です。授業を受けた学生から「須田先生の研究室に見学に行きたい」とせがまれ、先生にお願いすると、「お役に立てれば」と研究室訪問を快諾頂きました。実は須田先生の研究室にはTTCの卒業生も働いています。どんな環境で仕事をしているのか知りたい!いざ、出発です。

鶴見駅から臨海行きのバスに乗り、横浜キャンパスの理研へ向かいます。須田先生が所属する生命医科学研究センター(IMS)は、右に鶴見川、遠くにベイブリッジが見える見晴らし抜群の場所にありました。

須田先生が副チームリーダー(訪問当時)を務めるのがマイクロバイオーム研究室です。入口の青いドアにはキモかわいいぬいぐるみがたくさんぶら下がっていました。これはもしかして、腸内細菌のぬいぐるみ?

この部屋は、研究員が集って実験で得たゲノムの塩基配列のデータを解析する、学校でいう職員室にあたる場所でした。廊下を挟んだ向かいが実験室です。ここで腸内細菌の遺伝子をPCRで増幅したり、菌を培養します。腸内細菌は酸素のない環境を好むので、嫌気性用培養装置で腸内細菌を分離し培養しなければなりません。内部は空気ではなく、酸素を除いた嫌気ガス(窒素、二酸化炭素、水素)で満たされています。

続いて、理研の心臓にあたるサーバールームを特別に見学させて頂きました。ビニールカーテンをくぐって中に入ると、空調が効いていてひんやり。これだけ多くのサーバーが並んでいますから、熱で温度上昇を抑えるために空調管理は大切ですね。

「停電がおきてもデータは大丈夫ですか?」と学生。

「もちろん。館内が停電してもここは電力供給が止まらないようになっています。でも、メンテナンスや工事などでどうしても電源を切らなければならないときは、サーバーを落とすのに1日、再稼働するのに1日がかりです。」と須田先生。

日々、理研の膨大なデータを保管し、情報処理を行っているサーバー室。すでにたくさんのサーバーがありますが、容量が不足してきたので現在さらに増設しているとのこと。これにはみんなで驚きました。

続いて、白衣に着替えてIMSの施設を見学させて頂きました。長い廊下にDNAの2重らせん構造模型から遺伝子工学の歴史や理研の歩みをまとめた展示物が並んでいます。須田先生の解説を受けながら1つ1つを丁寧に見て回りました。

「腸内細菌のゲノム解析は、以前は1リード(一本の読み取れるDNA配列)の長さを百数十塩基程度を読むショートリードシークエンサーで行うのが主流でしたが、これだと部分的なDNA情報しか得られず菌叢の全体像を知ることができません。現在では、1万数千塩基までつなげて読める最新型ロングリードシークエンサーで解析しています。」と須田先生。

「そのロングリードのシークエンサーがあそこにあります。」先生の指差す方向には2台のDNA配列を解読する装置(シークエンサー)が並んでいました。

「右側は7000万で、左のが8000万円くらい、近々1億5千万円を超える最新機種も導入予定です」と驚愕のお値段。しかも、1台あたり維持管理に年間800万円もかかるというのですから、驚きです。

研究室に戻ってから、腸内細菌をどのように採取するかについての話になりました。須田先生が持ってきたのは大小さまざまな容器。「ここに便をとって、便から腸内細菌を単離します。」と須田先生。

「えっと、そのうんちはどこから?」「普通にラボ(研究室)の人のうんちをもらってます。」と先生。実験材料が同僚のうんち発言に私たちは大爆笑。さらに、「繊維質の多い物を食べた後の便は扱いにくいんですよ。」と続き、笑いが止まりませんでした。こういう面白いことを真面目に語るのが研究者の魅力ですね。本当に素敵です(*^^*)

須田先生の研究室には、菌の培養やPCRなど生物学的な実験を行う研究員と、パソコンを使いゲノムデータなどを解析する研究員がいます。前者をウェット研究、後者をドライ研究と言ったりしますが、現在は、両方の知識と技術をもっている研究者がとても重宝されるそうです。

「研究におけるバイオインフォマティクス※の重要性は高まっており、間違いなく、分子生物学の基礎的手技が身についており、シェルやPython、Rの基本を使いこなせるという人材が参画してくれたら、大型研究を抱えているラボはどこでも欲しいのではないでしょうか。私自身も実験の修行をしたことで微生物学や分子生物学の実験の原理が基本的に分かるため、各工程でバイアスが生じるポイントも分かります。そこをきちんと押さえていくことで、信頼できるデータを取れる。だから安心してデータ解析に取り組めます。」と須田先生。

須田先生の研究室には研究員ではなく(博士を持っていない)テクニカルスタッフとして働いている方々もいます。その中にはTTCバイオ科の卒業生もいます。訪問した時は残念ながらお休みでしたが、現在は分子生物学実験とメタゲノムデータなどの情報学的解析の一部をお手伝いしているということです。

自ら解析したい、開拓したいという好奇心旺盛な人たちが集うエネルギッシュなマイクロバイオーム研究室。たった1時間30分の滞在でしたが、須田先生や他の研究員のお話から知的好奇心が掻き立てられ、とても刺激的で充実した時間を過ごすことができました。

最後に、研究室へ温かく迎えてくれた、須田先生をはじめ、マイクロバイオーム研究室で働く方々にこの場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

※バイオインフォマティクス:主にコンピュータを使って生命現象を研究する分野。生物情報科学。

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文責:宮ノ下いずる

 

 

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