ヒト由来の細胞株の培養はじまる!(バイオ科 細胞工学実習 2年)〔012〕
やけどで損傷したところに皮膚を移植したい!
開発した新薬の安全性を評価したい!
インフルエンザの検査キットをつくりたい!
こうした医療分野に共通して必要になるのが、動物細胞培養技術です。
本校では、動物細胞の培養技術を身につける実習があります。今回は、私(宮ノ下いずる)が担当している2年生の細胞工学実習をご紹介します。
動物細胞の培養は培養期間が長期にわたります。細胞培養中に雑菌のコンタミネーション(汚染)を防ぐため、清潔な環境で実験をしなくてはなりません。 いつもより念入りに手洗いをしてから、身だしなみを整えます。まず、自分のマスクを殺菌したマスクに付け替え、ヘアーキャップにラボグローブ(手袋)をしてクリーンベンチ内で無菌的に細胞を扱います。
バイオ科のクリーンルームには6台(片面型3台、両面型3台)のクリーンベンチがあります。
〈クリーンベンチ内で無菌操作をする学生〉
使用する細胞は、ヒトの子宮頚部上皮がん由来のHeLa(ヒーラ)細胞です。増殖能力が高く、シャーレの底に張り付いて増える接着系の細胞です。
4日間培養したHeLa細胞を倒立顕微鏡で観察すると、写真のようにひし形状の細胞が
シャーレの底に敷石を敷いたようにびっしり貼り付いて見えました。
HeLa細胞は37℃に設定したCO2インキュベーター内で培養します。
緑色のCO2ボンベからインキュベーター内へCO2を供給します。
〈HeLa細胞を培養するCO2インキュベーター内部〉
HeLa細胞はアミノ酸や無機塩類、糖質などを含んだ合成培地に、生体成分である血清(牛の血清)を入れて培養します。班ごとに血清濃度や培地のpHを変えてHeLa細胞を培養し、HeLa細胞の培養に適した培地条件を調べました。
〈HeLa細胞が入った6穴マルチプレート(左から血清0%、5%、10%の培地)〉血清濃度が高い培地ほど、HeLa細胞はたくさん増殖します。
また、HeLa細胞と羊の赤血球を融合する実験も行いました。
〈実験の流れをまとめたホワイトボードの板書〉
羊の血液は小瓶に入って届きます。
〈融合した細胞液にヘモグロビン検出試薬を混合する学生(開放系)〉
〈融合細胞をさがす学生(開放系)〉
接着しているHeLa細胞はトリプシン(酵素)ではがし、球状の浮遊細胞にしてから、赤血球と融合反応をおこないます。融合しているかは、ヘモグロビン検出液を使って調べます。融合していないHeLa細胞は透明な細胞で観察されますが、HeLa細胞と赤血球の融合細胞は、青く発色しました。
〈融合細胞を光学顕微鏡で観察した様子。青い細胞が融合細胞〉
40~50個の細胞中1個の割合で融合細胞が観察されました。もっとうまく融合できた班は、10個中1個の割合で融合細胞が見つかりました。融合剤を入れるタイミングや、チューブを振る時の強さやスピードなど、微妙な操作加減が融合効率の良し悪しに影響します。技術を習得するのは難しいですね。(だからこそ実験は楽しい!)
ここでお知らせです!
11月21日(土)の半日体験入学では、動物細胞の観察や培地作製を体験していただく予定です。細胞培養に興味のある方は、ぜひ体験にいらしてください。
体験希望の方はこちら
次回のブログもどうぞお楽しみに☆
◆本日のバイテク用語№7◆
倒立顕微鏡: 一般的な光学顕微鏡(正立型)と違い、対物レンズがステージの下についています。シャーレ(培養容器)で培養している細胞を、シャーレごとステージに置いて観察できます。生きた試料をそのまま観察するのに適した顕微鏡です。東京テクニカルカレッジのバイオ科は10台以上の倒立顕微鏡と30台以上の光学顕微鏡(正立型)があり、微生物実習や細胞工学実習(植物、動物細胞)で組織や細胞の観察に使用しています。
〈本校の倒立位相差顕微鏡〉
文責:宮ノ下いずる