毛だらけの葉 (バイオ科 卒業研究 2年 植物班 )〔026〕
〈左:葉片 右:毛だらけの葉片〉
「何これー!?気持ちわるーい!」という声が聞こえてきそうですが、いったい何がおきているのか説明させていただきます。
右シャーレの綿毛のようにフワフワ見える白いもの。一見すると、カビが生えたようにも見えますが、実は『根っこ』。葉からたくさん毛状の根が生えているのです。「あれ?葉から根っこって生えるんだっけ?」ますます謎を深めてしまいましたね。
種明かしをしましょう。実は、この葉は、あえて『根っこ』が生えるように病気にした葉なのです。具体的には、土壌病原細菌(Agrobacterium rhizogenes)を葉片に感染させ、毛根病を引き起こしました。
この毛だらけの葉をつくったのは、卒業研究の『植物班』です。彼らは、土壌病原細菌をタバコ葉に感染させ、生じた根から、DNAを抽出。そして、タバコのDNAから病原菌由来の遺伝子を検出する実験をしています。
はじめに、タバコの種を無菌的に培地に撒いて発芽させました。
〈小っちゃくてかわいい、タバコの芽生え。〉
植物は、温度と日長時間、光の照度を調節できる人工気象器※で培養します。
〈植物を培養する人工気象器〉
〈培養植物の成長をチェックする様子〉
人工気象器から培養植物を取り出して、どのくらい育ったか観察します。ある程度、大きく育ったら、葉を切り出し、土壌病原菌を感染させます。感染が成立すると、2週間で葉から根が生えてきます。
〈感染から2週間後のタバコ葉〉
そして、感染から1ヵ月もすると・・・・
〈感染1ケ月後のタバコ葉〉
この通り。驚くほど毛だらけ状態になります。この病原菌は植物に感染すると、自分自身がもっている遺伝子(プラスミドDNAの一部)を植物の染色体に挿入する、つまり『遺伝子組換え』をおこすことが知られています。植物班は、この根だらけの葉からDNAを抽出し、病原菌由来の遺伝子をPCR法で解析しています。
〈電気泳動パターンについてディスカッションする様子〉
『植物班』は、病原菌の感染だけでなく、タバコ葉片を植物ホルモンの種類や濃度の異なるさまざまな培地で培養しています。実験に使ったシャーレは100枚を超えました。学生は、たくさん実験をしすぎて、データの山に埋もれそうだと、悲鳴をあげています。大量の実験データをどのようにまとめあげるか、卒業研究発表会が楽しみです。
〈さまざまな植物ホルモンの種類や濃度条件でおこなう組織培養〉
■ 植物班の学生から一言
タバコの葉から根っこが生じるのは、土壌病原菌の感染によるものだけではありません。植物ホルモンであるオーキシン系のインドール酢酸(IAA)を含む培地で培養しても葉から根が生じます。培地に加える植物ホルモンの種類や濃度を変えると、葉から根だけでなくカルス(未分化細胞塊)や芽など、さまざまな組織や器官が分化します。変幻自在(へんげんじざい)に分化の方向を変えられる植物は実験材料としてとても面白いです。
〈左)IAA0.2ppm培地で培養した組織 右)IAA 2ppm培地で培養した組織〉
今回は、『植物班』の卒業研究を紹介しました。次回は、電気泳動装置を自作している『装置班』の卒業研究内容をご紹介します。
どうぞお楽しみに♪
◆本日のバイテク用語№18◆
人工気象器:人工的に日長・照度・温度・湿度を調節できる恒温器です。TTCバイオ科には、人工気象器が2台あります。私たちは、人工気象器内を25~28℃、日長16時間、照度2000lxに設定し、植物細胞や組織の培養、発芽、順化試験に使用しています。
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文責: 宮ノ下いずる