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2025.12.20 バイオテクノロジー科

3時間のパン作りを50分に!親子で楽しめる「時短パンキット」

東京テクニカルカレッジ(TTC)にはRJPというユニークな授業があります。RJPは、Real Job Project(リアルジョブプロジェクト)の頭文字で、学生が主体となり実際の仕事で必要な、企画、予算計画、実行、振り返り、改善などのPDCAサイクルを継続して行うTTC独自のプログラムです。

バイオテクノロジー科(バイオ科)では、実験で身につけた仮説検証のノウハウを活かして、発酵食品やモノづくりなどを行いバイオテクノロジーの魅力をSNSで発信しています。今年度のバイオ科は1,2年生混合の6班編成で、毎週金曜日(2期~4期)に活動しました。今回は、時短パン作りにチャレンジした班を紹介します。

バイオ科のRJPパン作り班は、忙しい親子でも手軽に楽しめる「レンジ発酵を活用したパン作りキット」の開発に挑みました。実は、お子さんのいる社会人学生さんの『親子でゆっくりパン作りを楽しみたいけれど、時間がかかりすぎる……』というリアルな悩みからこのプロジェクトは始まりました。単なる料理ではなく、バイオの知識を活かして「なぜ膨らむのか?」「どうすれば工程を省けるのか?」を検証し続けた3期間の記録をご紹介します。

【2期 5~7月】

より簡単でおいしく!材料のベストバランスを検証

まずは「誰でも失敗なく、おいしく作れるパンレシピ」のベース作りからスタートしました。
パン作りは、強力粉・水・ドライイースト・無塩バター・塩・砂糖を混ぜ、発酵させてから焼くことをベースにしました。学生たちは「もっと風味を良くしたり、手順をシンプルにしたりできないか?」と考え、以下の3つのポイントを科学的に検証しました。

水 vs スキムミルク(風味の検証)

「水だけで作るより、スキムミルクを加えた方がコクが出ておいしいのでは?」と予想しましたが、実際に作って香りを嗅ぎ比べたところ、意外にも「水だけ」の方がパンらしい香りが引き立ち、評価が高いという結果に!

バター vs オリーブオイル(油脂の検証)

パンに欠かせない油分。バターの代わりに、家庭に常備されていることも多いオリーブオイルが使えるか試しました。基本は香りの良いバターとしましたが、「オリーブオイルでも代用OK」という結果でした。

イースト vs ベーキングパウダー(膨らみ方の検証)

「イーストによる発酵(菌の力)」だけでなく、お菓子作りに使う「ベーキングパウダー(化学反応の力)」を足せば、もっと時短で膨らむのでは?と実験。しかし、併用しても膨らみ具合に大きな差は出ないことが判明したため、余計な材料は使わず「ドライイーストのみ」のシンプルな構成に決定しました。

【3期 8~10月】

目指せ1時間以内!パン作りの「常識」を覆す時短術

3期では、とにかく「時短」にこだわりました。 一般的なパン作りは、こねる作業から焼き上がりまで合計3時間ほどかかります。しかし、これでは子どもたちが途中で飽きてしまいます。そこで学生たちは、工程を徹底的に見直し、「1時間以内で完成するパン作り」に挑戦しました!

1次発酵時間をたったの35秒2セットに!?

通常、1次発酵には暖かい場所で1時間ほど置く必要があります。 学生たちは、電子レンジの「解凍モード(170W)」に注目!レンジの熱を効率よく使うことで、なんと1時間を約1分間(35秒✕2回)にまで短縮することに成功しました。

2次発酵時間の30〜40分を省略しちゃう!
形を整えた後、一般的には2次発酵に30~40分かけるのですが、今回はどこまで時短できるのか、また、オーブンがないご家庭でもできるように2次発酵条件を6通りのパターンで検証しました。

実験を繰り返した結果、2次発酵を10分に短縮、さらには「思い切ってカット(0分)」しても、家庭で食べるには十分おいしいパンが焼けることを突き止めたのです!(官能評価やT検定の結果、有意差はありませんでした)

「まぜる・レンジ発酵・成型・焼く」という全工程を合わせても、わずか50分! バイオの知識を活かした工夫で、子どもたちが飽きる前に「いただきます!」ができる、驚きの時短レシピが完成しました。

【3期・番外編】「1つの袋」にまとめられるか?の検証

「時短」と同時進行で進めたのが、キット化に向けた「工程の究極のシンプル化」です。
通常、パン作りキットを作る際、砂糖、塩、イーストなどの材料は、混ざり合って反応してしまわないよう、別々に小分けして梱包するのが一般的です。しかし、それでは開ける袋が多くて大変ですし、ゴミも増えてしまいます。 「どこまで1つにまとめられるか?」を検証しました。

その結果、なんと全ての材料を最初から1つの袋に混ぜておいても、パンの膨らみや味に影響がないことが分かりました!
まさに「魔法の粉」! 統計データでも「差がない」と裏付けられたこの方法は、まさに「袋に水と油を入れて混ぜるだけ」で生地が完成する魔法の粉。 「子供でも迷わず作れること」そして「洗い物を極限まで減らすこと」を両立させた、バイオ科ならではの合理的なスタンダードが誕生しました。

【4期 10~12月】

ついに完成!「親子で楽しむパン作りキット」

最終段階では、これまでの実験結果を形にする「製品化」と、誰の家でも作れるための「最終検証」を行いました。

オーブン vs トースター(焼き方の比較)

「オーブンがない家庭でも作れるか?」を確かめるため、両方で焼き比べました。実験の結果、よりふっくらと安定して焼き上がるのは「オーブン」でしたが、トースターでも代用できることが判明!キットの基本レシピは、失敗が少ない「オーブン」を推奨しつつ、トースターでの作り方もカバーできる万能な内容になりました。

アレンジで広がる楽しさ ただのパン作りで終わらないのがRJP活動!生地にカラーパウダーで色をつけたり、具材を入れたりするアレンジ案を検討しました。特におすすめなのが、焼き上がった後にチョコペンでお絵描きができる「プチパン」。子どもたちが自分だけのオリジナルパンを作れる工夫をプラスしました。

ワクワクを届けるパッケージ作り

「開けた瞬間から楽しい!」を目指し、パッケージにもこだわりました。計量いらずの個包装材料 これらをセットにして、封を開けたらすぐにスタートできる「親子で簡単に作れるパン作りキット」がついに完成しました!

【番外編】学園祭で「パン教室」を開催!

完成したレシピを持って、学園祭で子ども向けのパン教室を実施しました。 「本当に50分で焼けるの?」と驚く保護者の方や、自分で形を作って焼き上がったパンを嬉しそうに頬張る子どもたちの笑顔を見て、学生たちもこれまでの研究の成果を肌で感じることができました。

今回のRJP活動を通じて、単なる知識の習得だけでなく、「製品の試作品」まで自分たちの手で作り上げたことは、本当に素晴らしい成果です。
思うような結果が出ずに検証を繰り返した日もありましたが、学生一人ひとりが「どうすればもっと良くなるか?」という問いに向き合い、主体的に課題解決に取り組んできました。

① 科学的根拠に基づいたレシピの最適化
② 徹底した時短と簡略化の追求
③ ターゲット(親子)に寄り添ったキットのデザイン

これらのプロセスすべてが、実際の仕事で必要とされる力に直結しています。
2~4期にわたる活動を終えた学生たちの表情には、やり遂げた自信が溢れていました。この有意義な経験は、これからの学生生活や将来のキャリアにおいて、必ず大きな糧となるはずです。

文責:宮ノ下いずる【189】

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