身の回りの菌の培養方法(バイオ科 微生物学基礎実習 1年)〔013〕
私たちの身の回りには目に見えない微生物(菌)がたくさん存在します。空気中、土壌中、そして私たちの皮膚や腸内にもいろいろな菌が生息しています。「菌」といえば「ばい菌」と言われるように、風邪などの病気を引き起こす「怖いもの」と思われがちですが、私たちの生活を豊かにしてくれる仲間もいます。
今回は、食中毒をおこす悪い菌から発酵食品で使われる有用な菌まで、さまざまな菌の培養技術を学べる1年生の微生物実習をご紹介します。
実習初日は、栄養培地をつくり、身の回りの菌を培養することから始めました。
菌の餌となる培地(粉末)を量ります。粉末培地と水を三角フラスコに入れ、オートクレーブにかけ滅菌して溶かします。
滅菌ガラスシャーレも自ら準備します。
ガラスシャーレを新聞紙で包んで乾熱器で滅菌します。
三角フラスコの培地を滅菌ガラスシャーレに分注※します。実験操作のデモンストレーションをする松井奈美子先生。学生はメモをとりながら操作手順を確認します。
いよいよ学生1人1人が培地をシャーレに分注します。シャーレは1人5枚ずつ。
袖をまくって、分注開始!培地を5等分に分けるのはなかなか難しい作業です。
無菌状態をつくるため、ガスバーナーをつけながら操作します。
培地が固まるまで、カルテを解いて授業の復習をします。
培地が固まったら、菌をまきます(植菌)。植菌の方法を松井先生が詳しく説明してくれます。
綿棒で菌を捕集し培地に塗り広げます。どこから菌を捕ってくるかは学生の自由。
ある学生は、手で触れるスマートホン(スマホ)にどれだけ菌が付着しているかを調べるため、スマホのまわりを綿棒でふきとり培地に塗り広げていました。
また、ある学生は、自分の体の表面から微生物を捕ろうと、頭皮、爪の中、鼻水、足の裏を綿棒でこすって培地に塗り広げていました。
自分に付着している菌を調べるなんて勇気がありますね。私だったら、培地いっぱいに菌が増殖したらショックなのでやりたくないなぁ。
〈笑顔で学生対応する松井先生〉
シャーレを重ねて輪ゴムでとめて培養します。
菌を塗布した培地は30℃のインキュベーターで1週間培養します。
はてさて、どんな菌が増えるでしょうか。
1週間後―――――
お食事中の方すみません。 ゾッとするくらい多くの菌が増えました。
蛇口、便器、靴裏、靴箱から菌を採取した学生の培地です。
ブランク(菌を塗っていない培地)以外にピンク、白、黄色、黒、いろいろな色や形のコロニー(菌の集落)が肉眼で観察されました。
便器が一番菌に汚染されているかと思ったら、便器より靴箱や靴裏から多種多様の菌がとれました。靴に付着していた土に多くの菌が含まれていたのかな?
今回の実験で、予想以上に身の回りのモノにたくさん菌が付着していることがわかりました。増えた菌すべてが私たちに害がある「ばい菌」ではないですが、清潔さを保つために手洗いは大切ですね。
バイオ科では、微生物学基礎実習の他、食品加工の実習でも、発酵に関わる菌を扱います。これからも、微生物を使った実習をどんどん紹介していきます。
来週のブログもお楽しみに☆
※分注:ピペットなどで検体や試料となる液体を一定容量吐出(としゅつ)すること。今回は、ピペットを使わず三角フラスコを傾けて培地をシャーレに注ぎ入れました。
◆本日のバイテク用語№8◆
インキュベーター: 温度を一定に保つ機能をもった装置。至適温度がある細胞や微生物の培養や酵素反応でインキュベーターを使用します。
文責:宮ノ下いずる